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一方、打席に立つ剛紀を観察しながら、嶋谷は配球を考えた。
「(中山さんに何を言われたのか、迷いのない顔をしてるな……)」
剛紀の表情からは迷いらしきものは見当たらず、その仕草や動作にもぎこちないものは無かった。
「(……一応、見せ球を使うか)」
嶋谷からサインが送られ、中田はセットポジションにつく。
「(外にスライダーを……外す)」
狙い通り、外角ボール一個分外れたところに中田のスライダーが向かってくる。
剛紀のバットがピクリと反応する。
しかし、それ以上の反応は示さずに、剛紀はボールを見送った。
「(反応…はするんだな。にしても、この場面で一切動じない強心臓は大したもんだな)」
頭の中を回転させ、分析しながら嶋谷は中田にサインを送った。
マウンドの中田は嶋谷の出すサインに同意した。
「(これで決まる…とは思ってないが、決めてやる!)」
流れるような投球動作から放たれた、中田の全力投球は、またもや狙ったところ、内角低めギリギリに伸びていく。
球種は、またしてもSFFだが、剛紀は、その球にも反応を見せる。
当然ながら、剛紀の手元でボールは落ちる。
振り出したバットは止まらない――はずだった。
「(止ッ…まれぇ!)」
ボールは、ホームベース上で一度跳ねてから嶋谷のミットに収まった。
剛紀のバットは、辛うじてハーフスイングに留まった。
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