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これまでのリードが間違っていたとは思っていない。
それは中田も同じ、絶対の信頼を寄せる嶋谷のリードだ。
いくら粘ろうと、結果は見えていた。
エースは、打たれない。
しなやかなフォームから放たれた白球は、ミットに向かって唸りをあげる。
剛紀が待ちに待ったストレート。
左足が大きく踏み込まれる。
一本の軸となった体は、根本から捻りだす。
鋭い腰の回転に置いていかれないように、バットヘッドが空を裂く。
刹那の出来事、18.44メートルの世界の勝負。
――軍配は、中田に上がった。
まるでピストルを鳴らしたかのように響き渡った、ミットの音。
高らかに挙げられた主審の右手。
しっかりと収まったボールの感触に余韻を感じながら嶋谷は中田に声をかける。
「ナイッスボー!」
対して中田は、熱くならず冷静に、ふっと静かに息を吐いた。
スタンドの観衆からは、歓声とため息が入り混じる。
「くっ………そぉ……!」
剛紀は、三度目も中田に敗れたことに悔しさを隠しきれなかった。
バットでヘルメットを叩きながら天を仰いだ。
結局、剛紀はこれ以上打席を迎えることはなく、チームは敗れた。
楽天・中田は9回完封、打線も八回表に連打と剛紀の失策が絡み、2点を奪い逃げ切った。
剛紀にとって、悪夢のようなデビュー戦となった。
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