暗雲

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悪夢のような開幕戦から約一週間が経過した、デーゲームのことだ。 ここまで1勝6敗と開幕から絶不調の西武ウルフズ。 今季ここまで、自慢の打線がイマイチ奮起しておらず、剛紀に至っては21打数0安打とオープン戦の活躍が嘘のようだった。 ――やはり、新人が開幕レギュラーは荷が重かったか。 メディアでは日が進むごとにそのように取り上げられ、遂には今日このゲームのスターティングオーダーから、剛紀は外された。 「何で打てないんだよ……」 剛紀は、グラウンドで戦う先輩たちを見やりながら、頭を抱えた。 甘い球は、もちろんあった。狙った球種が、狙ったコースに来たこともあった。 それでも、打てなかった。 原因が全く掴めないまま、試合は消化されていく。 日に日に焦る剛紀の頭には、二軍落ちの言葉が常に浮かぶようになる。 試合が終わり、寮に戻れば、ゆっくり休む余裕すらない。 剛紀の苛立ちが貧乏揺すりで表れる。 「スリーアウト、チェンジ!」 主審の攻守交代の声が聞こえた。 またもや西武は無得点に終わってしまったようだ。 「……振って来よう」 剛紀はバットを手に持ち、ベンチ裏の鏡部屋へバットを振りに向かった。
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