暗雲

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燦々と地を照らす太陽が、ジワジワとグラウンドの選手たちの体力を奪う。 埼玉西武ウルフズ、所沢練習場では、今日も一軍を夢見る二軍選手が汗を流す。 「楽しようとするな!腰落とせ!」 「遅い!一歩目が大事なんだよ、足を動かせ、足を!」 「オラァ!そんなプレーしてたら一軍なんて夢のまた夢だろ!」 コーチたちの怒り混じりの激励の声がグラウンドに響く。 「もう一丁!」 選手たちも、それ以上に声を張り上げる。 一軍にかける思いがそのまま態度となって現れる。 その中には、剛紀の姿もあった。 「次ィ!行くぞ樫琶!」 「お願いします!」 つい昨日までは、遠征先の札幌で高級ホテルに泊まり夜は照明の下、恵まれた環境で表舞台に出ていた男だ。 行きとは違い、埼玉までの帰り道は一般人と同じ扱いの席で帰宅。 その待遇の差は、正に天と地であった。 そして、練習内容にも違いが現れる。 遠征や連戦が続く一軍は調整や基礎確認など、より実践的な練習を多く行う。 対して、二軍では基礎反復練習に始まり、シーズンフルで戦える体力作り、筋力トレーニング、実践練習、紅白戦といったように、濃密なスケジュールの練習を一日中行っては、二軍の試合を戦う。 二軍の試合数は一軍より少なく、さらに12球団のホーム球場は使われない。 更に試合は必ずデイゲームで、照明も使われない。 二軍選手たちは地方球場で試合をこなし、球団専用グラウンドで血反吐を吐く。 照明に照らされた舞台で、いつか躍動する自分の姿を夢見て。
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