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「つまるところ、あたしはこの子たちには夢を見れる環境と自信を与えたいのよ。どぅーゆーあんだすたん?」
ユーモアを含ませた口調で思惑を口にする相賀に、再び徳利は溜め息を漏らした。
「いまいち監督が何を考えているのか理解に困りますが、私も若いこいつらが表舞台に立って暴れてくれたら、指導者冥利に尽きると思いますけどね」
乾いた音を立ててフラフラと打球が上がり、遊撃手、二塁手、中堅手が一斉に落下地点に走り出した。
イージーフライと思われたが、落下地点前にきて三人とも打球を譲り合ってしまってお見合いとなり、ポフッと三人の目の前に打球は落下した。
直ぐにグラウンドには怒号が響いた。
「あっちゃ~、あれ取ってやらないと投手泣くぞー」
やれやれといった様子で徳利が悩ましげに顔を歪ませる隣で、相賀は間抜けな声を上げて伸びをした。
「くぁ~……。やっぱりさ、気迫だよ」
「……は?気迫ですか?」
不意に呟くものなので、徳利は相賀の言うことを聞き返した。
「そ、気迫。この子たちの中の闘志は、いま正に風前の灯火なわけよ」
選手たちを目の前にしてそう揶揄しているのかと感じた徳利だが、至って真面目な様子の相賀を見て冗談ではないことを悟った。
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