暗雲

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がらんと広い部屋に、数台の四角テーブルと椅子が綺麗に並ぶ食堂。 その内の一つの椅子には、入り口に背を向けて腰掛けて、缶コーヒーを啜る男がいた。 「鷲峰くん、久しぶりだね」 鷲峰と呼ばれる男の背後から相賀が名前を呼ぶと、鷲峰はクルッと首を回して、切れ長の目で一瞥した。 そしてすぐに立ち上がり、二人の前に立った。 椅子から腰を上げる前から徳利は感じていたが、改めて前に立たれてその大きさを感じた。 「相賀監督、ご無沙汰しています」 礼儀正しいその態度とは裏腹に、彼の人相は良いとは言えなかった。 「徳利さん、こうしてお会いするのは初めてですね。本日からウルフズ二軍打撃コーチとなる鷲峰です。よろしくお願いします。」 加えて、その現役顔負けの体格の良さに、徳利は思わずたじろいだ。 「あ、あぁ、よろしく」 鷲峰 猛(ワシミネ タケル) 39歳。身長188㎝体重94㎏の体は筋骨隆々。 18歳から福岡コンドルズでプレーし、22歳の時にレギュラー定着。 初安打を本塁打で達成した日から、現役を引退する34歳までの生涯打率は.280ほどながら、本塁打を320本。 膝と腰に怪我を負い、脂ののりきった時期に惜しまれながら引退。 当時福岡コンドルズのコーチだった相賀は、鷲峰の魅力に気付きじっくり育てあげ、一流の打者にした過去があり、鷲峰は今でも相賀に対しては頭が上がらない。
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