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相賀と徳利は挨拶もほどほどに、鷲峰に対する席に腰を下ろした。
「まぁ、座って」
相賀に促されて、ようやく鷲峰も腰を下ろした。
ギシリと悲鳴を上げる椅子の音が、鷲峰の質量を感じさせた。
「もう君には話しはしてあるけど、徳利コーチもいることだし確認を兼ねて、改めて君に来てもらった理由について話そうか」
穏やかな表情は崩さないまま相賀は問いかけ、そうですね、と鷲峰は承諾した。
横では、徳利が落ち着きのない様子で外した帽子の鍔を弄っていた。
「まず、君には新しい打撃コーチとして選手を指導してもらう。君の打撃理論を彼らに刷り込んでくれ」
師弟関係であった二人であるから、お互いにどういった持論を持っていたかは理解しあっていた。
しかし、徳利にとってはなんのこっちゃといったところで、まさに蚊帳の外であった。
そんな徳利には構わず、相賀は次に衝撃的な言葉を告げた。
「そして、もうひとつ。君の手で樫琶剛紀を日本一の打者に育ててくれ」
そう言って相賀は鷲峰の方へ体を向け直した。
その隣で徳利は、自分に相談もなく水面下で進められていたプランに驚きを隠せずに、思わず席を立ち上がった。
「な、なんですかそれ!こんな時期に打撃コーチの補充だなんて変だと思ったら……」
思わず声を荒げる徳利を宥めるように相賀は、まぁまぁと声をかけた。
「ちょっと落ち着きなさいよ。ちなみに、あたしの独断じゃないよ。ちゃあんと、若辺監督や球団と相談してあるから」
取り乱す徳利とは対照的に、相賀は以前マイペースを崩さない。
「樫琶についてですが……」二人の間に割って入るように、鷲峰は口を挟んだ。
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