暗雲

12/13
前へ
/90ページ
次へ
「彼を日本一の打者に、とのことですが、保障は出来ません」 そう前置きしてから、姿勢を少し前傾させ、話を始めた。 「確かに、彼はセンスも強い精神も兼ね備えている、素晴らしい新人です。しかし、プロとして必要なものは持っていない」 真剣に語る鷲峰に恐縮し、徳利は静かに着席した。 「それが、君にも分からない。ということだね?」 鷲峰の言わんとすることを先読みした相賀は、食い入るように鷲峰の話を聞いていた。 「はい。実際に近くで見れば分かるかも知れませんが、まずは我々がそいつを知ることから始まりますので」 「ふむ……」と、相賀は白髪混じりの頭を掻き上げた。 「単純に、ハングリー精神とかじゃないですか?」 そう意見を述べた徳利だったが、間髪入れず鷲峰はそれを否定した。 「いえ、そういった単純なものではないと思います。」 「ハングリー精神なら、彼の一軍への執着心が物語ってるしね」鷲峰の言葉を補足するように、続けて相賀が言った。 「あ、そうですか……スミマセン」 そう言って、徳利は縮こまってしまった。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加