111人が本棚に入れています
本棚に追加
/493ページ
「葵!準備できてるか!?」
窓越しに聞こえる、大きな声。
もうっ。
今日こそはと思ったのに!
「あと5分~!!」
勢いよく窓を開けて、あたしは慌てながら返事を返す。
その先には、見慣れた顔。
真新しい制服に袖を通した彼が、訝しげな表情で立っていた。
…あ、制服姿、初めてだ。
「あのなぁ…。入学式の時くらい、寝坊すんなよな!先行くぞ!」
「…待ってよ、けちーっ!」
ブレザーを羽織りながら振り向くと、窓から離れていく後ろ姿が見えた。
恥ずかしがって見せてくれなかった、高校の新しい制服。
中学とは違う大人っぽい姿に、…一瞬、見とれてしまったなんて。
そんな言い訳、できっこない。
あたしは赤くなった顔を冷ますように、パタパタと手で扇ぎながら、残りの準備に取りかかったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!