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「あたしもまりのも、冬也がずっと大切に想ってたこと、気づいてたんだよ。…葵のこと」
そう言うと、優花はあたしから手を離した。
無意識に頬に手を当てながら、あたしは必死に優花の言葉を理解しようと努める。
「だから!ずっとずっと想ってきた冬也の気持ちを、なかったみたいに言う葵が悪い!」
優花の言葉にはっとして、同時に丸まっていた背中がぴんと伸びる。
目の前の優花を見れば、眉間に皺を寄せて必死な表情をしていた。
隣に並んでいるまりのも、同じように真っ直ぐにあたしを見ていて…。
それだけで今の言葉が真実だと感じとることが出来て、冬也君の優しさが自分にだけ向けられていたのだと、今更気付いて無性に恥ずかしくなる。
だから抱きしめられても、…キスされても、明確な言葉がなかったからって、あたしは冬也君の気持ちを見て見ぬ振りをしようとしていたんだ。
冬也君を思い出して浮かんでくるのは、優しい笑顔で。
笑顔の先にいたのは、あたしで。
ああ、あたし。自分のことばっかりだったんだな…。
「冬也を押すわけじゃないけど…。辛い恋を選んだあいつが、あんまりにも不憫だから、さ…」
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