新しい恋

21/48
前へ
/1367ページ
次へ
圭吾くんは、私の顔を覗き込んで来る。 駄目だ… まともに目を合わせられない。 微妙に視線を外しながら、ビロードのケースを彼に突き出す。 「え…?…ゆ…子サン…?」 戸惑いに揺れた声が鼓膜を刺激した。 「…これ…やっぱり返す、ね」 「……」 彼の反応はない。 「…今更かもしれないけど…」 「……」 今、彼はどんな顔をしているんだろう… 気になるけど、見るのが怖い。 重苦しい沈黙に耐えかねて、私は彼の手を取り、指輪の入ったケースを無理矢理握らせた。 「返すの遅くなってごめんね…」 「……」 「…じゃ、私行くから」 ようやく返せた。 これで、胸のつっかえがなくなる筈。 「…あ…夕子サン…」 ゴミ捨て場を出ようと、背を向けた私を彼が引き止めた。
/1367ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25397人が本棚に入れています
本棚に追加