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圭吾くんは、私の顔を覗き込んで来る。
駄目だ…
まともに目を合わせられない。
微妙に視線を外しながら、ビロードのケースを彼に突き出す。
「え…?…ゆ…子サン…?」
戸惑いに揺れた声が鼓膜を刺激した。
「…これ…やっぱり返す、ね」
「……」
彼の反応はない。
「…今更かもしれないけど…」
「……」
今、彼はどんな顔をしているんだろう…
気になるけど、見るのが怖い。
重苦しい沈黙に耐えかねて、私は彼の手を取り、指輪の入ったケースを無理矢理握らせた。
「返すの遅くなってごめんね…」
「……」
「…じゃ、私行くから」
ようやく返せた。
これで、胸のつっかえがなくなる筈。
「…あ…夕子サン…」
ゴミ捨て場を出ようと、背を向けた私を彼が引き止めた。
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