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引き止めないでよ。
「何…?」
私は振り向かないまま返事をする。
そんな私の背中に彼が静かに言った。
「…さっき雨がぱらついてましたよ」
その声が寂しげで、圭吾くんらしくない気がしたけれど、やっぱり振り返ることは出来ない。
「…分かった。傘を買って帰ることにするよ。教えてくれてありがとう」
そんな彼の様子に胸を痛めながら、私はその場を後にする。
店内で傘を買い、通用口から外に出ると、彼の言った通り小雨が降っていた。
傘を弾く雨音を聞きながらアパートまでの道を辿る。
指輪を返せば楽になれると思ったのに、ちっとも心が晴れない。
それ所か、逆にどんよりと暗く沈む一方。
私の心から彼がいなくなるのは、まだまだ先なんだろうな…
そう思いながら、私は歩む速度を速めた。
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