木枯らしが吹く頃

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朝の天気予報を見ると、この冬一番の寒さになるでしょう、と天気予報士が言うとった。 温度計の横で解説しとる天気予報士は確かに寒そうやけど、この冬はまだまだ続くというのに一番の寒さなどと言い切ってええんやろうか。 なんて心の中で屁理屈を言いながらも、しっかりとコートを着込みマフラーを巻いて家を出る。 玄関のドアを開けるとひんやりとした外気がふわりと体を包み込んだ。 息を吸い込めば肺に冷たい空気が流れ込んできて、喉から肺にかけてすうっと冷えていく。 「.......冬の、におい。」 ほんまに匂いがしたかと聞かれればそうではないが、肺を満たす冷え切った空気に冬の訪れを感じた。 体はとても冷たいのに、胸はじんわりと熱くなる。 なんや無性に綾部に逢いたい。 その優しくて温かな腕で、今すぐにでも抱き締めてほしい。 木枯らしが頬の感覚を掠め去っていくんも、綾部への恋しさの所為か心地好くて。 気がつけば僕は駆け出していた。 1秒でも早くお前に逢いたい。 fin.
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