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俺は慌てて煙草を消した。
「人に焼き芋するなとか言っておきながら、自分も火遊びしてるなんて」
あきれた顔で俺を見つめる。
「いやいや、火の規模が違うでしょ」
そう言うと、彼女は「そうですけど」と静かになった。
「あの、よかったらどうぞ」
彼女は俺に缶コーヒーを差し出した。
「くれるの?」
「はい、舞、あ、さっきのもう一人に買ってきたんですけど、彼女授業に行っちゃったみたいで」
行っちゃったって表現はおかしい。
「だいぶ遅刻だけど?」
「出席取り出すのが遅い授業なんです、名簿が回ってくるんですけど、代返してくれるはずの子が来てなかったみたいで」
ああ、あったあったそういうこと。
「じゃあ仕方ないな、出席は大事だもんな」
俺はコーヒーを受け取ると、内ポケットの小銭入れを探した。
「あ、いいです、さっき見逃してもらったので」
「さっきって?」
「焼き芋です、普通なら教務に通報されて怒られるところなんで」
そう分かってるなら何故する。
俺の呆れた様子が伝わったのか、彼女は笑った。空気が少し揺れるぐらいの、小さな笑み。俺は何故か、その妙な空気感に吸い込まれそうになった。
「だから先生、焼き芋は内緒にしといてください」
俺はほぼ有無を言わさず、コーヒー1本で買収された。
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