赴任

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 俺に資料のファイルを渡しながら、先生は思い出したように「そうだ」と言った。 「赴任初日で思い出したけど、お前、今日暇だろ?」  出た、このパターン。 「ええ、飲みに行きますか?」 「おお、よく気づいたな、さすが心理学者」  更に上を行く心理学者に言われても。 「心理学もなにも、元から今日は飲みに連れてってもらうつもりでしたからね」  先生は適当に笑ってごまかして「それでなんだが」と続けた。 「連れて行きたい奴がいるんだが」 「え、誰ですか」 「うちの学生」  研究室の学生2人を連れて行きたいとのことだった。俺は正直先生と2人で飲みたいとこだったが、断る理由もないので了承した。 トントン  背後でノックをする音が聞こえた。 「はいよー」  先生がそう言うと、ドアが開いた。 「おはようございます」  なんだかふわっと甘い香りを漂わせて入ってきたのは、学生…ではないらしい。 「あれ、吉沢先生呼んだっけ?」 「いやーん、いつもみたいにコーヒー一緒に飲もうかなって思っただけですー」  豊橋先生は頭を掻いたが「まあちょうどいいか」とOKした。
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