381人が本棚に入れています
本棚に追加
「安藤、こちら吉沢先生。君の隣の202の部屋にいるよ」
なんとなく適当な紹介が少し気に食わなかったのか吉沢先生は「もうっ」と言った。
「豊橋先生ったら、ちゃんと紹介してくださいよー」
「はいはい、安藤、分かった?吉沢先生はこういう感じだから」
確かに風貌でなんとなく察しのつく感じの先生だった。
甘い香水のにおいに、この寒い時期に薄手のカーディガン。首元の露出が際立って目に付いた。
「初めましてー、安藤先生」
「どう?なかなかの男前でしょ?こいつ」
「ちょっとなに言ってるんですか」
吉沢先生はニコニコしながら、俺を見た。
「若輩者ですが、よろしくお願いします」
俺はなぜか怯えた気持ちになって、吉沢先生に頭を下げた。
「あら、そんなに怯えなくてもいいのに、可愛い」
豊橋先生は苦笑して、俺と吉沢先生を見ていた。こりゃややこしい人なんだろうな。
「ともかく、今日の飲み会ですけど、あたしも行きますんで」
「あー、聞こえてた?」
どうやら吉沢先生はドアの向こうで聞いてたらしい。なかなかの強引っぷりに豊橋先生は呆れながらも「ま、そういうことだから」と俺に言った。
「時間は18時に正門で待ち合わせにしてあるから」
俺の返事を待たず、吉沢先生がうきうきで「はーい」と返事をした。豊橋先生の顔を見て、俺も苦笑を返しておいた。
なんだかややこしくなる前に俺は吉沢先生を置いて部屋を出た。その時の豊橋先生の顔はいかにも「捨てられたオス犬」だった。
最初のコメントを投稿しよう!