赴任

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 飲み会は大学から20分ほど歩いた場所で行われた。 「店には先に学生を行かせてあるから」  そう言って、豊橋先生は当たり前のように呼びつけたタクシーに俺と吉沢先生を乗せた。 「砂崎さんと大橋さんでしたっけ」  俺が資料に書いていた苗字を言うと、吉沢先生が反応した。 「そうよー、もしかして安藤先生もう目付けてるのかしら」  うふふ、と隣から甘ったるいにおいと笑みを漏らして冗談を言う。 「そうそう、こいつ気取ってるからな、今日は」  ついでに豊橋先生も乗っかって、2対1の構図に俺は追いやられた。 「資料に書いてたのを覚えてただけですから。研究生2人くらいの名前は暗記しますよ、そりゃ」  3年前に新設された時はどうもあまり認知されていなかったらしく、今の大学の3年生で心理学を専攻しているのはこの2人しかいないようだった。名簿を見る限り、その下の2年と1年はそれぞれ15人ほどいる。 「そうだな、あの2人はうちの第一期生だからな、大切に扱わないと」  豊橋先生が言った。 「私の研究室と豊橋先生の研究室に1人ずつしかいないなんて、すごく贅沢なことだと思います」 「うちの砂崎は本当に何考えてるか分からん。吉沢先生のとこの舞ちゃんは可愛い子なんだわ」  おそらく俺は豊橋先生側の「本当に何考えてるか分からん砂崎さん」とやらと付き合いが長くなるのだろう。 「なに言ってるんですか、香奈ちゃんこそあの大きな目で見つめられたら、どんな男もイチコロじゃないですか」 と、吉沢先生が褒めたところで、俺はふとひっかかった。 「舞…、香奈…」  先生2人が「ん?」と聞き返したところで俺は今日の焼き芋2人組を思い出した。  いや、そんなまさかな。
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