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終電がホームにやってくる。
「よかったな、家に帰れるぞ」
砂崎はなんとか顔を上げて、電車を確認すると「よかったです」と息も絶え絶えに言った。そして俺を見上げて、少しはにかんだ。
つぶらな瞳は相変わらず力がなかったが、腕に感じる砂崎の握る力はさっきよりも確かだった。
「お前、その顔は反則だな」
「…?」
「いやいい、なんでもない」
電車のドアが開いて、まばらに人が降りてくる。ちらりと俺たちを一瞥してすれ違う人たち。だよな、俺明らかにおかしいよな。
砂崎を先にして電車に乗り込む。ほとんど人のいない車内。ローカル線万歳。
「ほら、座るぞ」
ゆっくり砂崎を降ろすように俺は端の座席に座らせた。隣に腰を下ろすと、大きくため息が出た。
うなだれたまま、砂崎は頭を手すりに軽くぶつける。
3駅か。
明日何か言われても、言い返せる言葉を幾つか探して、俺は砂崎の頭を自分の方へ寄せた。磁石のように俺の腕にくっついた小さな頭には、右に渦巻くつむじ。
「恨むなよ、ほんとに」
ゾンビは一瞬首を縦に振ったような気がしたが、気のせいだったかもしれない。
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