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「鍵が見当たらないんだが」
俺は若干イラつきながら砂崎にそう問いかけたが、言葉で答えられないらしい。切なそうな顔で俺を見つめて、ほとんど泣きかけの状態だった。
俺が泣きたいが、努めてやさしく、責め立てないように注意しながら聞く。
「もしかして、忘れてきた?」
砂崎は「わからない」と言いたげに首をかしげる素振りを見せた。
「学校?」
同じように首をかしげる。
「悪いけど、お手上げだよ、俺」
参った。俺は、軽く酔った頭でめまぐるしく考えを巡らせた。
こいつをここに放っておくわけにはいかない。今さら学校までタクシーで帰ったところでおそらく門は閉まっている。というより、酔っぱらった学生を連れて学校には戻れない。駅前で時間を潰せるような場所もなければ、こいつの元気もない。
「俺さ、こんなこと赴任した初日には言いたくないんだけど、聞く?」
今にも泣きそうな砂崎が俺の顔を見上げる。だから泣きたいのは俺だって。
「…俺の部屋に来る?」
上下に呼吸する砂崎は、目を幾度か瞬いて、なんとか言葉の意味を理解しようとしている。
「先生…」
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