赴任

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 豊橋先生には俺が学部にいた頃からよくしてもらっていた。授業には出ない、学校にも来ない、それでも先生は見捨てず、声をかけてくれた。 「安藤、お前今日暇だろ、飲みに行くぞ」  そんな電話が週に3回かかってきた。 「授業は単位がもらえれば適当でいいから、卒論だけは本気でやれよ」  豊橋先生は俺に酒と心理学を叩き込んでくれた。かろうじて現役で学部を卒業できると分かった時は本当に感謝した。 「何言ってんだ、お前は俺のお気に入りだからな、卒業してもらわんと困る」  無難に卒論発表も済ませて、俺はそのまま同じ大学の院に進んだ。当然、「俺が面倒をみるから」とあっさり豊橋先生の研究生になった。  それから、俺が院を出ると同時に、先生は大学を変わった。俺はその後、何年か先生の知り合いを頼って、大学を何校か渡り歩いた。そしていよいよ心理学で何とか食っていこうと思った去年の冬、豊橋先生に呼ばれた。  今の大学へ来た日のことは一生忘れないと思う。
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