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教室、どこだ。迷った。
「いや、あり得んだろう」
我ながらガッカリする。405号室を探して講義棟の4階をさっきから行ったり来たりしている。
「あれ?先生?」
背後から声がして振り返ると、大橋が駆け寄ってきた。
「何してるの?」
含み笑いをしているところからして、俺が教室難民になっているのを察しているらしい。
「ごめんけど405ってどこ?」
「先生来るの今日?」
「そう。豊橋先生と吉沢先生の代理でさ、急遽やることになったんだけど」
ほえーと興味あるのかないのか分からない反応をして、スタスタと俺の前を行く。
冬にしては薄着に見える。上はそれなりのダウンを着ているが、足元は素足が飛び出している。
「寒くないの?脚出てるけど」
大橋は振り返り「若いから大丈夫なんですー」と、にいっと笑う。
「はい、ここ」
ドアを引くと、がらんとした部屋が目に入った。30人ぐらいのキャパだろうか。
「香奈まだ来てないね」
「来てないねって、もう10分遅刻してますが」
「先生もじゃん」
まあ、そうだけど。
大橋は電気を点けるとすたすたと教壇の前の席に向かい、鞄を置いた。
「あいつ来るかな」
「え、何やっぱ気になるの?」
にやにや笑いながら、教壇に荷物を置く俺を覗き込む。
もしかして。
「その節は香奈がお世話になりました」
ご丁寧に手を重ねて頭をわざとらしく深く下げる。知ってるのか、あの鍵ない事件。
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