冬休み前

4/52
376人が本棚に入れています
本棚に追加
/355ページ
「あいつから聞いたの?」 「うん、だって珍しく香奈が午前中からアクティブに研究室とかその辺の教室を見回ってたからさ。なんかあったのかなって声かけたの」  どうやら、大橋に事情を話して一緒に鍵を探したらしかった。結局構内では鍵が見つからず、バイトの時間になった大橋と別れてうなだれて帰ったらしいが、その後鍵が見つかった報告を受けたらしい。 「香奈さ、すごい気にしてたよ、先生のこと。まさか同じマンションだなんて面白いね、そんなことあるんだね。しかも家の鍵が玄関に挿さったままだったとか、めちゃくちゃ笑ったよ」 「ちょちょちょっと待って。お前結構聞いてんだな」  話を遮ると、俺の慌てた様子をよそにあっけらかんとした顔をする。 「うん。先生の家に泊めてもらったーって」  流石にそれには驚いたそうだが、とにかく俺が終始気を使って出来るだけそっとしておいてくれたのが嬉しかったと大橋に話していたらしい。 「大丈夫だよ。誰にも言ってないから」  俺のお祈りモードが伝わったのか、自発的に付け足した。 「まあ香奈ってさ、ちょっと抜けてたり、ぼんやりしてるところあるから。私としてもサポーターがもう一人増えてよかったなって思ってる」  見た目はオテンバ娘だが、なかなか心優しい一言を言う。 「お前いいやつなんだな」  まあね、と朗らかに笑ったところで、教室のドアが開いた。
/355ページ

最初のコメントを投稿しよう!