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砂崎は「んー」と口をすぼめて考えるジェスチャーをした。
「なんとなくはあるんですが、漠然としていて。冬休みを使って考えようと思ってるんですけど、遅いでしょうか」
思ってたよりまともな返事が返ってきて安心した。
「そっか、年始ぐらいには豊橋先生に出さないと流石に心配するだろうから、俺も手伝おうか?」
俺がサポートを申し出ると、大橋は「何その特別待遇」と不平を漏らした。
「先生やっぱり香奈のこと家に泊めて気持ち持ってかれてんじゃないのー?」
「おい、何てこと言うんだよ」
俺が折角砂崎に気を使わせないように鍵ない事件の話は触れずにいるのに。あろうことか泊めたことを切り出して話したりするとは。
砂崎は気まずそうに顔を逸らした。
「あのな、あの日はどうしようもなくて泊めたけど、普通は10も離れたしかも自分のとこの学生にそんなことしないの。俺はお前たちが無事に卒業まで粘れるか心配なだけ」
口数が多いところが怪しい、とか言われるが、本音なんだからこれ以上どうも言えない。
「先生」
砂崎は口を開く。
「この間、応援するって言ってくれましたよね」
「へ?」
「あの言葉、私嬉しかったです。だからお願いします」
大橋は振り返って興味深そうに砂崎を眺める。
「おお…もちろん。力になるよ」
穏便に済ませたい俺は、砂崎のその純粋な一言に救われたと思い、協力の姿勢をアピールした。
この時は、その年の冬休みがまさか、応援どころか身を呈して砂崎に掛かりっきりになるとは思ってもいなかった。
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