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「で、初講義、どうだった?」
期待感に満ちた表情で豊橋先生は聞いた。
「どうだったもないですよ。講義って言っても2人を相手にざっくばらんに話して終わっただけです」
ちっとわざと聞こえるように舌打ちをする。会議が大層つまらなかったのか、雑に積まれた本の山を叩きながら続けた。
「何だよ、お前の若さをもってしても収穫なしか?」
ミッションだった砂崎の研究スケジュールについてだった。
「あ、いやそういう意味では、冬休み明けには予定を立てて報告するって砂崎は言ってましたよ」
お、と感嘆する。
「でかした。あの子にしては日程まで示唆して、具体的だ。いいぞ、お前やるなぁ」
打って変わって機嫌良さそうに俺の肩を叩く。
本日二度目のコーヒーを淹れながら、俺は振り返った。
砂崎はもう少し話さないとわからない。何となくだが、何かを閉じ込めているというか、出さないように気をつけているというか。
「なにイケメンがすかして黙ってんだよ」
「ちょっと、危ないですって」
先生は一つたちまちの心配事が失せたことに気を良くして、鼻歌を歌う。昔からよく聞く往年のロックバンドの曲だ。
とにかく、人付き合いもなさそうなタイプに見えるし、自分の考えや感情を前に出させるような機会をこっちから作ってやらないと、本当にフェードアウトしそうな雰囲気がある。
「先生、提案していいっすか」
軽快な鼻歌を遮って言うと、首だけこちらにやって「なんだい」と返事した。
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