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結局次の卒論特講は、待てど暮らせど砂崎は顔を出さなかった。
初めは、また寝坊でもしたのかと思ったが、そのことを豊橋先生に話すと、いつものことだと言われた。
「学生なんてな、お前も分かると思うけど、こちらの思うようにはなかなか行かないよ」
「そんなもんなんですかね」
俺は最後に砂崎が割と自分の話をしっかり聞いて、研究材料を調べようとしているように見えたけど。
「まあ過度な期待はしないことだ」
豊橋先生はあっけらかんとしていたが、俺自身は少し腹落ちできないままでいた。
「先生、今日俺、夜桜に行ってみようと思うんですけど」
砂崎に会いに。というと、度が過ぎて聞こえると思ったから言わなかった。
「おお、いいんじゃない?俺も行くし」
そう言いながら入口の方を見渡して「よし」と呟いた。どうやら吉沢先生が出現しないか警戒しているようだった。
「じゃあ俺、18時に出ます」
「わかった。俺ちょっと用事あるから、お前先店行ってて」
定期的に見てやって、と言った豊橋先生のお願いに応える意味もあったが、あのふわふわと気まぐれな砂崎がどんな風に働いているのか興味があった。
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