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「砂崎、元気?」
出された惣菜をつまみながら、俺以外に客のいない店内で少し離れた場所にいる砂崎に声をかけた。
「はい、変わりないです。今日も鍵あります」
「何そのテンプレみたいな台詞」
「だって絶対聞かれるじゃないですか」と拗ねたように言う。
「俺ね、待ってたんだよ、お前のこと」
へ?と不思議そうな顔をする。
「言っただろ卒論特講、俺の部屋に一応顔出してねって」
なんのことやらみたいな顔をして「そうでしたっけ」と聞き返す。とぼけてるのか、本当に忘れているのか微妙なところだった。
「でも私、あの日ちゃんと調べました、カラーバス効果のこと」
純さんが出来上がった冬野菜の天ぷらをそっと俺の前に置いた。ふわりと湯気の立つ出汁からカツオの匂いが漂う。
「おお、そうなの。なんだ」
「なんだって、もしかして信用してなかったんですか?」
純さんが砂崎の切り返しに笑う。
「いや、してないことはないけど、来ないから心配した」
謎の沈黙が漂う。俺はとりあえず箸を持ってごぼうの天ぷらを出汁につけた。
「ちょっとやめてよ、気まずいカップルみたいな空気」
純さんが面白そうに俺たちにコメントした。
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