冬休み前

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「それでどう?なんとなくイメージ湧いてきた?」  向こう卒業するまでそれなりの時間を費やして書く卒論で、何を書きたいかは比較的重要だと思っている。 「はい、細かいところはもう少し考えますけど、カラーバス効果で書くことにします」 「お、そうなの!」  と声をあげたのは豊橋先生だった。カウンターで一対一で話している俺と砂崎は、入口の先生に気がつかなかった。 「先生、いらっしゃい」  純さんは先生を出迎えにカウンターから出て行く。俺から少し離れたテーブルに座ろうとする先生の肩をポンと叩いて「今日もありがとう」と声かけた。 「純ちゃん、今日はいい酒が飲めそうだ。砂崎の卒論が完成した!」 「ちょっと、先生気が早すぎますって」  俺がカウンターからなだめると「いやあ、めでたい」と渋い顔を崩して笑った。純さんは先生の目の前にキープラベルのかかった焼酎ボトルとロックグラスを持ってきた。 「砂崎と安藤にも、一杯注いでやってくれる?お前ら何でも好きなの飲んでいいよ」  純さんが「また香奈ちゃんに飲ませて」と少し呆れたように笑う。妙に明るい先生の雰囲気からして、ここへ来る前に既に飲んで来たな。 「安藤先生、何にしましょうか」  ほとんど空いたビールジョッキに目をやり、砂崎は俺の注文を聞いた。 「じゃあ、豊橋先生と同じものもらおうかな」  市販でもよくある芋焼酎は、昔から豊橋先生とよく飲んでいる銘柄だった。最近は手に取ることがなかったが、先生の奢りとなるとこれだなと思った。その歴史を雰囲気で感じ取ったのか、砂崎は「じゃあ私も」と言った。 「え、お前大丈夫なの?」 「だってお祝いでしょう?」  砂崎がそう言うと豊橋先生がロックグラスを持って「そうだ、お祝いだ」とだめ押しした。 「鍵はあります」 「あーわかったから」
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