冬休み前

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「じゃあ俺も先生をタクシーに乗せたら帰るよ。砂崎、お勘定しておいてもらえる?」 「ありがとうございます。準備しておきますね」  少し酒を飲んで顔がほんのり赤い砂崎はレジに向かった。  店の前に到着したタクシーにおじさんを詰め込むだけの簡単な仕事を、俺はデジャブだなと思いながら、手際よく済ませた。ほとんど眠っていたが、住所は伝えたから大丈夫だろう。  純さんと2人で寒空の下、先生を乗せたタクシーが行き去るのを見届けた。 「安藤先生、今日は香奈ちゃんに会いに来てくれたの?」  店のドアを開けようとしたところで純さんが聞いた。 「いや、まあ半分はそうです。もう半分はお店に顔出したかったので」 「そう」と純さんは俺の背中にそっと手を当てた。 「香奈ちゃんのことお願いね」  そう言って、俺の返事も待たずに店のドアを開けた。
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