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店内に戻ると砂崎は手際よくテーブルを片付けていた。丁寧に拭くその姿は、どことなく家事に慣れているように見えた。
「さ、俺も帰るよ」
すると純さんは手をひとつ叩いて、朗らかに言った。
「じゃあ、香奈ちゃんも今日は上がって?あとはもう私がやっとくから」
砂崎は目を丸くして「でもまだシンク、全然片付いてないですけど」と不思議そうな顔をする。
「いいの、安藤先生に送ってもらいなさい。2人はおうち近いのよね?」
いや、その提案は鋭角。
「はい、私も先生も同じマ」
「同じ駅なんです、渦巻」
砂崎が確実に「同じマンション」と言おうとしたのを慌てて遮った。
「この間も先生が香奈ちゃんを送ってくれたのよね、ありがとう」
その言い方がもう絶妙で、そうなんだが、それ以上なんとも言えないしで返しに困る。そして、今夜も当然俺が砂崎を送って行くように仕向けているようにしか聞こえない。
「先生、私1人で帰れます。鍵もあります」
「いいんだよ、もうその話は」
鍵もありますとか言うとややこしくなるだろう、と少し睨みつける。
その様子を見てか、砂崎と純さんが楽しそうに笑う。
「先生、あのね、私、純さんにもお話しちゃいました」
え?
「先生のおうちに泊めていただいたこと」
慎ましやかな表情で純さんは、頬に手を当てて「若いって羨ましいわあ」と言う。
「だから、私、先生来た時、純さんにお話ししたこと言ってなかった!と思って。気まずい空気出しちゃいました、ごめんなさい」
純さんの真似をして頬に手を当てて、ほろ酔いの砂崎は白状した。
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