赴任

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 構内は女子で溢れ返っていた。 「いや、本当に派手ですね」 「お嬢様だらけだからな」  先生は学生の間を縫うように先を急いでいた。時々すれ違う学生が短い悲鳴のような声を上げる。豊橋先生はどうやらこの大学でもおモテになるようで。  上下スウェットのオヤジにしては、端整な顔立ち。40半ばにして、この体型を維持。おそらく、まだ趣味の水泳は辞めていないのだろう。  俺が学部にいた頃から先生は女子学生の人気の的だった。心理学にまったく関係のない学生も先生の授業を取っていた。研究室には人生相談を名目にした、先生への告白も後を絶たなかった。 「相変わらずですね、先生」 「心配しなくても、お前もそのうち同じような感じになるだろ」  何人かの学生と短い挨拶を交わしながら、先生と俺は講義棟内へ入っていった。  階段を上がり、2階に着いたところで先生は言った。 「お前の研究室203な、俺201だから、はいこれ」  鍵を手渡され、俺を一度一瞥すると、笑った。 「お前、やっぱり気取ってんだろ」 「いや、だから初日ぐらいスーツでいいでしょ」  決めた、もう一生スーツ着てこない。 「じゃあ、俺授業あるから。2コマになったら俺の部屋来いよ、資料とか渡すから」  そう言って颯爽と部屋へ消えていった。腕時計は9時10分を指していた。完全に授業は始まっている時間だ。俺は気を改めて、鍵を回して用意された部屋に入った。
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