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この界隈は、街灯がまばらだ。
静まりかえった古い家屋を縫うようにして駅に向かう。冷たい風が顔に当たるが、アルコールが程よく回った身体には心地よかった。
「先生は、私のことどう思ってますか?」
隣を歩く砂崎は、唐突にそんなことを聞いた。
「なにその豪速球」
不意打ちを食らって思わず砂崎を見ると、俺を見上げていた。暗がりの中でも瞳の形がよく見える。それは、冗談とも本気とも言えない、率直に思ったことを聞く表情。
「答えないとだめ?」
口からは、戸惑いが混じる曖昧な声が出た。
「聞いてみたくって。私は先生からどんな人間に見えてるのかなって」
そう言われてしまうと、何か答えざるを得なくなる。ただ、どう思うかと、どう見えているかは違う。見え方を答えるならまだ客観的な答えができる。
「真っ先に言えることは、俺はまだ砂崎のことそんなに理解できてない」
その続きを俺は少し慎重に言った。
「ただ俺は、お前のことをもっと知りたいと思ってるよ」
「本当?」
「本当だよ。これで答えになってる?」
黙るということは、あまり腹に落ちてないか。俯いて、足元を見ている。
「そうだよな、どうして知りたいかが知りたいんだよな」
何をどこまで言っていいのかが難しい。
「ごめんな。あまり場当たり的なことを言うのはまずいと思って」
どうして周りのみんなが、こいつを見守って欲しいと言うのだろう。その意図を俺はまだ測りかねている。
「学生だからですか?」
「それもあるし、1人の人間として発言に気を配ってる」
俺の答えにふっと笑って言った。
「先生、優しいですね」
「どうだろう。ありきたりに聞こえると思うけど、お前のことが気になってるのかもしれない」
砂崎は少し歩を早めて、「気になってる」と言葉を反芻しながら前を行った。
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