冬休み前

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 暖色のライトに照らされたマンションの入口に辿り着くと、無意識にため息が出た。俺の白く上がる息に合わせて、彼女は手を離した。 「どっと疲れた」 「私もです」  自分のどこに眠っていたか分からない感情に弄ばれて、結局今のこの状況がどういうことなのか上手く理解できずにいる。 「よりによって同じマンションとなると、いよいよお前との距離感がわからなくなるよ」  エレベーターに乗り込むと、狭い空間のせいか真横に立つ砂崎の距離が一層近く感じる。無言の数十秒は気まずさに圧迫された。  明日からどうしたものかと考えながら、俺の部屋の前に着くと、砂崎は察知したように一歩離れて、静かに言った。 「安藤先生」 「ん?」 「私、今日こんなことがあったからって、学校で変な態度取ったりしませんから、安心してください」  返し方に困る俺に「ちゃんと鍵あります」と自分の家の鍵を指にぶら下げて笑って見せる。  その取り繕おうとする姿に、自分の今までの言動があまりにお粗末だった事を思い知らされる。  一体なんなんだ。  そっと砂崎の腕を引くと、彼女の耳にかかる髪が揺れた。おもむろに抱きしめかけたその一歩手前で、躊躇してしまう。 「こんなところ他の人に見られたら終わりだな」  今更な俺の台詞に「田舎だから大丈夫じゃないでしょうか」と笑うと、吸い寄せられるように砂崎は俺の腕に収まった。  この心配の種とどう向き合って暮らしていくべきか。明日からの自分に通用する言い訳を考えたが、当然何も浮かばなかった。  小さな頭に添えた自分の手を見ながら、とりあえず全て自分の落ち度で間違いないことは自覚した。
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