冬休み前

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「じゃあ、そろそろ帰るか」  寝てるんじゃないかと心配になるくらい微動だにしなかった砂崎をそっと腕から開放する。突然暗闇に電気が点いて驚く動物みたいに俺から体を離した。 「そうですね」  照れた顔にこっちも恥ずかしくなる。 「よかったな、週末で。ちょっとゆっくり時間かけて考えるか」  これで明日も平日ならまともな顔して大学に行けそうもない。 「私はたくさん寝ます」  その言い方があどけなくて、若いってこういう事なんだろうなと実感する。 「すくすく育ってくれ。ちゃんとメシは食…ん?なに?」  今度は自分から俺に抱きついて、胸の辺りに耳を付ける。 「先生がゆっくり考えた末に全てが失われてしまわないように、お祈りです」  それが切実な願いだとしたら余計に考え込んでしまうが、自分自身がこれ以上考えなしに砂崎と時間を過ごすのは到底無理に思える。 「不安になるよな。携帯の連絡先でも教えようか」  目を輝かせて顔を上げる。 「いいんですか?」 「いいよ、気休めかもしれないけど。あと、駅からここまであんな暗い道をお前が1人で歩いてるのが心配」  取り出したスマホに俺の電話番号を打ち込んでやると、大切そうに保存ボタンを押した。 「LINEもそれでいけると思う。なんかあったらいつでも連絡して」 「ありがとうございます先生」 「じゃあな、おやすみ」  頭を撫でてやると、さっきよりも穏やかな顔をした。 「おやすみなさい」
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