冬休み前

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 その週末は、自分がこれから何をすればいいのか考える時間になった。もう一度砂崎と初めて会った頃から今日までのやり取りを思い出せるだけ攫った。  実態として、大学講師と学生の関係を超えてしまった。その実感が増してくると放り投げたくなる気持ちになってしまう。  ただもし、彼女が学生じゃなかったとして、他の出会い方をしていたら、どうだったろう。それでも俺は同じような結果に辿り着くのだろうか。 「とか想像したけど、結局この関係はあくまで講師と学生なんだよな」  学生時代の連れと県立図書館に併設されたカフェで話していた。  月一程度で会う慎太郎は日本史マニアで、図書館で待ち合わせ、各々本の貸し出しを受け、小一時間喋って、現地解散か時々飲みに行くか、至極まともな学友の付き合いを続けていた。 「安藤って頭いいのに悪いよな。そんな外側と中身がアンバランスな関係、続くわけあるかよ」  カフェテーブルに平積みした今日の戦利品を一冊ずつ眺めながら、慎太郎は言った。 「分かってるよ。分かってるけどもうそうなっちゃった前提で今お前に喋ってんだよ」  ため息をつかれる。こんなに分かりやすく呆れられたことがない。 「俺もね、今はもう辞めたけど高校教師やってた頃は、生徒とそういう関係になったらどうしようなんて思ったりしたよ。でも、生徒はみんな一生懸命だったからさ、一瞬でもそんなこと考えた自分が浅はかだと思った」 「それは相手がまだ子どもだったから?」 「いや、違うって。お前本当バカじゃん。成人してるから最終的にはOKみたいな話じゃないから。お前は、尊敬されるべき立場であるにも関わらず、その身分を利用して教え子に手を出してる。それが客観的事実」  そう言われると、落ち込みそうになる。
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