冬休み前

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「私、週末に考えてみたんです」 「考えたって、何を?」  俺は先週末のことを言ってるのかと思い変に動揺したが、砂崎は鞄からクリアファイルを取り出して、俺の前に提示した。 「何って、論文の構成です」 「え?あ、そう。すごいな、もうできたの?」  拍子抜けと驚き半分で受け取ると、砂崎は嬉しそうに笑った。  数枚のA4レポート用紙を両面使って印刷されているそれは、卒業論文作成のスケジュールと構成の説明資料だった。 「カラーバス効果を通した恋愛行動の変容と観察、これタイトルだよね」  どこからどう見てもその字の大きさといい、記載箇所といい、タイトルに間違いないだろうが、だめ押しに砂崎が首を縦に振った。 「どうでしょうか」  研究スケジュールと詳細を確認した。ざっくりした流れとしては、春先までは対象者の恋愛行動観察をし、カラーバス効果が認められたイベントとその効果がどの程度か分析するといったもの。 「お前、これどうやってやるの?」  この質問の答えは今あなたが見てるそれでしょ、と言いたそうに怪訝な顔をしたが、俺が聞きたいのはそこじゃなかった。 「対象者って誰よ」 「え、先生です」 「マジで言ってんの」 「はい」  頭が痛くなってきた。どうねじ曲がったら、この週末で俺を観察対象にすることが決まるんだ。 「俺、週末結構悩んだのよ、お前のこと」 「私も悩みました」  そうか、とはならない。 「めちゃくちゃ考えたけど、俺の想像力が足りなかったかもしれない。まさかこういう形で砂崎が示してくると思わなかった」  それもあんなにアウトプットがないと豊橋先生に言われていたのに、それなりに量のあるレポートがたった数日で仕上がって、今こうして目の前にある。 「もし、これがダメって言われたら、やっぱり先生は色々考えた末に先週のことは無かったことにしたんだって、結果が分かるとも思ったんです」  きちんと答えを出せと、無邪気な顔してどんどん俺を抜け出せない罠に嵌めてきているらしい。
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