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俺は先生の部屋をノックした。
「はいよー」
部屋に入ると、半開きになったカーテンの隙間から差し込む夕日が目に刺さった。窓際のデスクにはパソコンの画面を片肘ついて眺める先生がいた。
俺を確認すると、先生は「まあ座れ」と作業用のテーブルに促した。
いつもの軽い冗談を交わす雰囲気はなく、黙って先生は保温ボトルの作り置きコーヒーをカップに注いだ。
「さて、大変なことになった」
俺にもカップが渡されたが、いつもの量の半分程度に減っていた。
「あ、悪い。コーヒー足りなくて申し訳ない」
それがわざと減らされたように感じて、俺は萎縮した。
目の前に先生は座ると、足と腕を組み、悩ましそうに眉間にしわを寄せた。
「まず、俺は確認が必要だと思ってる」
昔から先生がこう切り出す時は大抵厳しい指摘を言う前と決まっていた。
「はい、正直に答えたいと思います」
俺は今、この部屋に来る前に吸い込んできたありったけの酸素と付け焼き刃の覚悟で臨んでいるが、既に無言の威圧に心が折れかかっていた。
「砂崎に恋愛を題材に取り入れさせたのはお前か?」
カラーバス効果までは先週の夜桜で豊橋先生は聞いていた。
「いえ、違うと思います」
「思いますってどういう意味だ」
間髪置かずに問われる。
「直接は言ってないって事です」
コーヒーを一口飲むと、ハッと鼻で笑った。
「興味深い返しだな。そこを詳しく聞こうか」
この人は初めから俺がこの話に大いに関わっていることを分かってる。敢えて俺から白状させるつもりだと理解できた。
「そして場合によってはお前を死刑に処す」
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