冬休み前

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 俺は慎太郎にバレない方法は幾らでもあるだろうと言われたのを思い出し、それが早くも崩れ去る音を頭の中で聞いた。 「俺がこの学校に来た日のことですが」  まず鍵をなくした砂崎をやむなく自宅に泊めたことから打ち明けた。先生は、目を瞑って俺の話を聞いていたが、一つだけ確認をした。 「ちなみに、俺にその話をしようとは思わなかった?」 「すみません、この時は咄嗟にそのような対応しかないと思いましたが、今思えば事後でも報告すべきでした」  流石に純さんも大橋も知ってるとは余計だと思って言わなかった。 「それで?その後どうなった?」  俺は、先生から砂崎のことを気にかけて欲しいと言われたことをきっかけに、卒論の相談に乗ることに決めたこと、その延長線上で彼女の様子を見に夜桜に行ったことを話した。 「お前意図的にカラーバス効果なんか持ち出して、自分のことを意識させようなんて思ってないだろうな」 「いや、それはないです。彼女が意識と行動を絡めた研究に興味があると言っていたので、題材は俺が提示しましたが、他意はありませんでした」  先生は神妙な面持ちで「そうか」と頷いた。 「お前の中で何が起こってたんだろうな」  俺はそれに対しては上手く答えられなかった。 「分かりません。ただ、砂崎を夜桜から送っていく帰り道で、とても彼女のことを気にかけてしまう自分に気がつきました」
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