冬休み前

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 「んーーーー」と長く伸ばした後、先生は席を立った。 「お前のことだから、俺も道ずれになる可能性まで考えてないんだろうな」 「そりゃ、今日白状することになるなんて思ってなかったんで…」  頭を掻きながら、先生は「まあ俺も原因の一端か」と呟きカーテンを閉めた。夕陽が途絶えると、白熱灯の光で部屋が照らされた。 「分かった。その代わり俺とお前の間で約束しろ」  その約束は4つあった。先生は手早くホワイトボードに書きつけていった。  ・砂崎を学部1期生として卒業させること  ・学内ではくれぐれも漏らさないこと  ・卒論の観察対象は対象Xで通すこと  ・砂崎が卒業できたら安藤は大学を去ること 「脳内に焼き付けろよ、書面にも残さないから」  俺は全てを復唱して、自分の中に閉じ込めた。 「分かりました。これで問題ありません。ありがとうございます」  でも最後に先生は「あ、これも足していい?」と茶目っ気を含めて書き足した。  ・純ちゃんには喋ってもいい  前の4つと違ったフニャフニャの字体を眺めて、先生のムラみたいなものを感じた。 「なんで純さんはいいんですか」 「いいの、純ちゃんは。じゃないと俺口がムズムズして発狂しちゃう」  部屋でジタバタしながら1人叫ぶ豊橋先生を想像すると、笑ってしまった。 「分かりました。俺も正直助かります。砂崎の様子も知れるので」  先生はホワイトボードを消した。 「砂崎には、なんか適当に言っておきます。さっき物々しい雰囲気感じて帰っていったので」  そんなもんお前が考えてなんとかしろと睨みで返される。 「じゃあ、失礼します」 「もう来んな」と笑いながら先生はデスクから手を振った。
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