冬休み前

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 来年には大学を去ることを条件に出されたが、不思議と即答したことに違和感は覚えなかった。  仕事を片付けて帰宅すると、物がほとんど無いの部屋に洋服を脱ぎ捨てて自分を解放した。  今までも行き当たりばったりだった。いつだって今一番いいと思ったことがベストな選択だと思っている。  先生は俺のそういう性格を理解していて、次の居場所を見つけるための猶予を与えたんだろうか。 「そう思うことにしよう」  部屋着に着替えてビールをグラスに注いだタイミングで、ちょうど砂崎から短いメッセージが届いた。 《こんばんは。今、渦巻まで帰ってきました》  これが初めて砂崎から受け取ったメッセージだが、初めはもっと他愛もないやり取りが繰り広げられるはずだったと思うと、若干残念に感じた。  電話をかけると砂崎はすぐに出た。 「もしもし、砂崎です」 「お疲れさま。さて、鍵はありますか?」 「鍵あります」  ふふ、と笑った後で、鍵の金属音を鳴らしてみせた。 「よーし、えらい」 「わたし、えらい」とロボットのように復唱する。軽やかな声だった。 「じゃあ、砂崎が家にたどり着くまで俺の話聞く?」 「聞きます、お願いします」と食い気味に返事した。
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