冬休み前

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 俺は先生から幾つか条件を出されたことを話した。ただ、来年には大学を去る約束をしたことは除いた。 「論文の書き方は考えないといけないが、まあ一応承諾は出たと思ったらいいんじゃないかな」 「そうですか、よかった」  実は自分が大胆なことをしてしまったのを仕事中に反省していたらしい。 「結果として、お前がやりたいことを尊重するわけだけど、先に言っておいていい?」 「はい、何でも仰ってください」  電話越しで言うことではないような気がしたが、先手を打たれたなりに、俺も強めの反撃を入れた。 「俺に恋愛感情の芽があるのか、はっきり言ってまだ分からない」  素直に早く言ってしまわないと、タイミングを見失うと思ったが、砂崎は反応に困ったのか、少し沈黙の間が生まれた。  しばらくすると電話の向こうで砂崎がため息をつくのが分かった。 「そうですね、私のことを知ってもらう機会作らなくちゃですね」  確かに、その機会創出がなかなか難しいのはお互いにもう勘づいていた。 「先生、これは半分お願いですが、一度デートでもしませんか?」  その方が私のことを早く知ってもらえると思うと付け加えた。  デート。 「俺、そんなのもう何年もしてない」  こんな年の離れた相手と、しかも観察されることも含めてなんて、想像もつかなかった。 「先生が場所は決めてください。私が指定するのではなくて、先生が私をどこに連れて行くのか考えてください」  こういうのも記録として取っていくつもりなんだろうなと察した。ただ口調は、俺が恋愛感情があるかわからないとか言ったせいか、少し拗ねた様子だった。  とはいえ一度決めたことを前に進めるには反対のしようもない。 「分かったよ。冬休みの前半は仕事が立て込むから、その後でもいい?」  流石に特講をしながら砂崎をどこかに連れて行くのは難しい。 「大丈夫です。私も掛け持ちで短期のバイトをするので、前半たくさん働いて後半は空けるようにします」 「へえ、何のバイトするの?」 「舞のお店、ランチの人手が足りないみたいなので、その助っ人です」  昼も夜も飲食とはまたタフな労働だな。 「じゃあ後半で予定しとくよ」  小さく「バイトがんばろっと」と囁いた声が嬉しそうで何よりだった。
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