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マンションに辿り着いたと言うので、俺はそろそろ電話を切ろうとした。
「無事に帰ってこれたみたいだし、そろそろ切るよ」
「え…」
「何かある?」
「ないですけど」
「うん、じゃあおやすみ」
「え…」
「なに?」
「寂しいですね」
「俺は別に寂しくないけど」
露骨に黙るので、からかい甲斐が増してくる。背後でマンションの自動ドアが開いた音がした。
「じゃあな、本当に切るよ」
「はい…おやすみなさい」
ツーツーと切れた携帯の画面を見ると、通話時間は30分ほど経っていた。駅までの距離を考えるともう少し短いはず。遠回りでもしたのか。
電話中に無意識に飲み干してしまったビールグラスにもう一本捧げようと立ち上がると、ふと廊下の先が気になった。
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