赴任

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 なんなんだあれは。  普通大学内で焼き芋とかするか?常識がないにも程があるだろう。それともここはそういう自由なとこもOK!みたいな大学なのか?  あの香奈って奴、ちょっと不思議な雰囲気醸し出してたな。 「まあどうでもいいか」  俺は、デスクのパソコンを立ち上げて、椅子に座った。見渡すと、ここは俺が幾らか憧れていた景色だった。研究生としてずっとやってきて、いつもここに座る教授に愛想を尽くしてきた。物凄く腹の立つことも乗り越えてきたと思う。  俺はこの椅子に座って踏ん反り返る教授たちが好きになれなかった。豊橋先生は、あんなに穏やかだったのに、こいつらは何故こんなに偉そうなんだと。でも実際この椅子に座ってみて、その感覚が分かる気がする。 「そりゃ偉くなった気になるわ」  改めて豊橋先生が例外であることも理解した気がする。同時に、俺もそれにならってやっていくべきなんだろうと思った。  鞄から持ってきたUSBを挿して、俺は自分のデータをPCに移し始めた。データコピー終了まであと10分。  2コマまで時間もあるし、ちょっと散歩に出るか。  俺は上着を羽織って、研究室を出た。
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