3777人が本棚に入れています
本棚に追加
夜。都心部の大通りは、行き交う歩行者と車で溢れていた。
僕は足を進め、いかにも冷房が効きまくっていそうなビルと、その横に並ぶビルの間へ――路地裏へ入る。
行く宛てなどない。ただ気ままに外を歩きたかっただけなのだ。しかし……いや、やはり外は騒がしい。
まあそれでもミルク一色で統一された病室より幾分かはマシか。本来、僕はこうして外を出ることも許されないのだから。
では、何故外に出れたのか。その答えは分からないが、常識的に何らかの魔術が僕にかけられていると考えるのが妥当だろう。
どおりで人通りが一切無い静かな路地裏に来てみれば、嫌な視線を感じる訳だ。
しかし、僕の推測は砕け散った。
視界の先。光が全く届かない闇の中に誰かがいる。人だ。身長は僕と同じ程。何より一番目を引いたのは、
「狐面……」
黒い闇を裂くように存在する白。そこに赤や黄など、様々な模様が描かれた仮面だ。よく祭の屋台で売っている物に近い。
ぞくり、と。
悪寒が背中を這う。言葉を交わさなくとも分かった。コイツは危険だと。
最初のコメントを投稿しよう!