29.朧月を眺めて

6/13
前へ
/546ページ
次へ
私は取り敢えずパソコンの作業を始めた。 けれど、文章を一文打っては自然と携帯電話の時間表示ばかりが目に入る。 まだ五分も経ってないけど、これじゃあ気になって仕事が手につかないよ。 未だ主の現れない隣の席を見つめては、小さく溜息を漏らす。 …………。 あ、そうだ、先に異動の件だけ部長に返事しとこう。 どうせ途中から愚痴コースになるだろうから、その方が多少でも気も紛れるし。 窓の外を見ては膨れ上がる不安に、前だって取り越し苦労だったんだから大丈夫と自分に言い聞かせつつ、私は受話器を手に取った。
/546ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9412人が本棚に入れています
本棚に追加