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「改めて聞くが俺たちの村に来てくれないか」
うつむいた陳を見ていた飛耀は首を降った。
「やめておこう。一度や二度勝ったぐらいでこの男は俺を認めないだろう」
「しかし」
「この男がそうであるように、他にも快く思わない者も居るだろう」
まだ食い下がろうとした孝も言い返す言葉を失った。
飛耀は火のそばに腰を下ろすと枝を何本か足した。
「これからどうするつもりだ?」
「わからないな」
だったらという言葉を孝は飲みこんだ。
飛耀の言うように見知らぬ人間を快く思わない者も居る。
かと言ってここで諦めるには惜しい男である。
「近いうちに村に賊徒が現れるはずだ、その時だけでも力を貸してはくれないか?」
未練がましいと自分でも思うほど孝は食い下がっていた。
「ここ数日、酒を飲んでいないな」
飛耀から意外な言葉が出てきた。
その言葉にうつむいていた陳も顔を上げた。
何を言っているのかと問いたげな表情である。
「近くに酒を飲める場所はないか?」
「ここから東に行ったところに小さな村がある」
「そこに美味い酒はあるのか?」
「村一番の酒があるそうだ。肉料理も評判という話だ」
「そうか、近いうちに行ってみるとしよう」
飛耀はそう言うと横になってしまった。
どうやら眠ってしまったらしい。
孝は物音を立てないようにして踵を返した。
陳が慌てたように付いてくる。
孝は自然と頬が緩むのを止められそうになかった。
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