二ノ宮綾乃

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放課後の屋上でフェンスにもたれていた。 明日から冬休みという事で部活生は居ない。 その静寂とした校庭を見下ろすと、正門で語りあっている一組の男女が見えた。 女の方がキスを迫る。 男の方はなんの抵抗も愛の言葉を囁くでもなく、ただそれにこたえた。 感情のない、ロボットのように。 フェンスを握る手に力が入った。 「なに見てんの?」 いきなりの俊也の声にゆっくりと振り向く。 「なんでもないよ。」 ポーカーフェイスで笑顔をつくった。 細い眉に優しい目。明るめの茶髪が風になびいて俊也の整った顔を隠した。 「そろそろ髪切ったら?」 顔にかかった髪に手を伸ばした。 「えー。俺尖端病だからハサミ向けられたら怖いもんー。」 「なにふざけた事言ってんの。」 いつも通り何気ない俊也の冗談を笑い飛ばした。 「綾乃は短い方が好きなの?」 「長髪よりかはね。」 「じゃあ切ろうかな。」 「はいはい…」 笑い飛ばしてやろうと思ったが、俊也の真剣な目を見るとそれはできなかった。 「なぁ…」 髪に触れた手を俊也が握る。 と、同時に勢いよく扉が開いた。 「ねぇっ!聞いてよっ!!」 校舎と屋上をつなぐ扉から、正門でいちゃついていた女、由宇がこちらへと走ってきた。 かなり興奮しているらしく、2人の現状を微塵も気にしていないようだ。 「どしたん。そんなに慌ててー。」綾乃は何事も無かったかのように由宇の元へと離れた。 俊也も無言でそれに従った。 「あぁぁあのねっ!!!!春がねっ!!!!明日のクリスマス一緒に過ごそうって!!」 綾乃に抱きつきながら叫ぶ由宇に俊也は顔をしかめながら言う。 「あぁ?春がぁ?あの陰キャラ野郎が自分から誘うなんて事すんのかよ。」 「ふんっ!陰キャラじゃなくて真面目なんです、俊也と違ってね!しかも春ん家で!2人きりで!!」喜びを隠しきれないというように由宇はその場で跳ねてみせた。 「はぁ?なにアイツ~いきなしキャラ替え?」 俊也は邪魔された腹いせか、単に信じられないのか、由宇の言葉を認めようとしない。 そんな俊也を無視して、由宇は綾乃に向き直った。 「ほんと、綾乃のおかげだよ。色々春の情報教えてくれて。あたしの事紹介してくれたのも綾乃だし…ほんと、ありがとっ。」 大袈裟なほど感謝し抱きつく由宇を見ながら、一息おいてこたえた。 「……よかったね。」
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