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「あ、あのっ。それならあたしが…」
すかさず右隣に座っていた綾乃が手を挙げた。
「なんです?」
鋭い刑事の目が素早く綾乃へと移動した。
「あ…お昼すぎにメールがきたんです、由宇からっ。」
そう言って綾乃はポケットから白い携帯を取り出した。
「見せてもらってもいいですか?」言いながら刑事は携帯を取り上げ、答えを聞く素振りも見せず中年刑事のもとへとそれを渡した。
「少しお借りします。」
代わりに中年刑事が丁寧に受け取った。
2人は少しの間画面を見つめ、そのあとで互いに目を合わせ、携帯を綾乃の元へと返した。
やせ型の刑事は咳払いをして春を眺めた。
「まぁ、原因がそれだとは言えないけど……」
いまいち話が読めなかった俺は、こっそりと綾乃が握ったままにしている携帯の画面を見た。
『綾乃~ちょっと聞いてよー!!
せっかく初えっちかと思って
期待してたのに
なぁーんにもしてこないんだよ?つまんなくて
キレて帰ってきちゃった(笑)』
馬鹿だ。
付き合って半年もたつのにまだHもしてなかったなんて。
もしお前と入れ替われるなら、その体を俺はもっと有効に使うだろう。
うつ向いたままの春に、中年刑事が肩を叩いた。
「由宇さんの死因は自宅マンションの屋上から落ちたって事だが…それは自殺なんかじゃないよ。きっと雨で滑ったかなんかしたんだろ、手すりも壊れてたし………。これは事故だよ。」
うつ向いたままの春が、自分のせいだと責めているように見えたのだろう。精一杯の優しい言葉をかけていた。
でも違う。
春は悲しんでなんかいない。
俺は知っている。
コイツの嘘と、秘密を。
雨は勢いを増していた。
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