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応接室の扉が、ゆっくりと開く。
扉からは、とても品の良い、老紳士が入ってきた。
「やぁ、璃子ちゃん、こんばんは」
その素敵な老紳士は、よく見ると、正装をしたゲンさんだった。
普段の作業着とは、あまりに違うゲンさんを、思わず2度見して、驚きの声を上げた。
「あーっ、ゲンさん!」
あたしは、気心の知れた新たなお客様の登場に、ホッとして近づいた。
「璃子ちゃん、今夜は、一段と美しいね。眩しいよ」
「やだっ、ゲンさんったらぁ!
ゲンさんこそ、見違えるほど、とっても素敵です!」
そっと差し出されたゲンさんの右手に、あたしは、左手を乗せて、軽くしゃがんで、ご挨拶した。
「じゃあ、褒めてもらったお礼に、今度、素敵なレストランでの、お食事にお誘いしようかな?」
「もちろんっ!ぜひ、喜んで♪」
ゲンさんの粋なお誘いに、あたしは、二つ返事で頷いた。
そして、ふたりで目を見合わせて笑顔を溢す。
「それはうれしいねぇ。アッハハハ……」
ゲンさんは、とてもうれしそうに、高らかな笑い声をあげた。
ゲンさんの斜め後ろには、普段通りのスーツを着こなした時田さんが、ゲンさんとあたしの会話を、微笑ましく見守りながら立っていた。
「時田さん、こんばんは」
「こんばんは、璃子さん」
あたしの挨拶に、時田さんも笑顔を返してくれた。
仲良しコンビの登場に、気持ちが一気にほぐれてゆくのを感じた。
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