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「ゲンさん」
「んっ、なんだい?」
あたしは、手を添えたまま、少しゲンさんに近づき、小さな声で話しかけた。
「あのね、あたし、今夜は、素敵な方にエスコートしていただいてるんです。
ぜひ、ゲンさんにご紹介したいんですけど」
「それは、是非とも紹介してほしいね。
以前、『いつも、ここに居る』って言っていた方かな?」
ゲンさんは、空いている左手で、トントンと自分の胸を叩いた。
「クスクスッ……そうなんです」
絶対に、ゲンさんは、喜んでくれる。
あたしは、そんな確信を胸に、笑顔で大きく頷いた。
「あのね、あちらに……」
ゆっくりとゲンさんを促すように振り返る。
てっきり、机のそばに立っていると思っていた和也さんが、いつの間にか、あたしの斜め後ろに立っていた。
驚いて、和也さんの顔を見上げる。
和也さんの表情に、さっきまで薫さんと話していた時のような柔らかさは無い。
その代わりに、凛とした真面目な表情を浮かべている。
あれ?
どうしちゃったのかな?
もしかして、初めてお会いする方だから、緊張してる?
和也さんが緊張……?
いやいや、そんなはずは、ないない、ない。
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