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「結婚?」
ゲンさんが、和也さんに向き直って問いかける。
ゲンさんの落ち着いた声色が、眼差しが、一瞬でその場の空気を、凛と引き締めた。
何と答えるのだろう?
ゲンさんだけど、ゲンさんとして答えるのではない。
渡グループの筆頭株主としての、松本家の家長としての判断……
認めていただけるのだろうか?
いや、そんな簡単なはずはない……
あたしの左手が、思わず、力を失い、預けていたゲンさんの右手から抜け落ちそうになる。
すると、ゲンさんの右手は、そっと、あたしの左手を掴んだ。
えっ……ゲンさん?
伏し目がちになりかけた眼差しを、あたしは、ゲンさんに戻した。
「和也」
「はい、お祖父様」
「結婚と言ったね?」
静まり返った部屋に、ゲンさんの声が響く。
「はい」
和也さんが、力強く答える。そして、続けた。
「私は、幼い頃から、お祖父様とお祖母様を見ながら育ちました。
おふたりの仲睦まじく、共に試練を乗り越えながら、歩むお姿は、いつしか、憧れではなく、私に課せられた、越えなければならない高いハードルへと変わっていました。
そんな私の心の中に抱えていた高い壁を、いとも簡単に乗り越えて来たのが、璃子です」
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